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どぜう往来七号[昭和五十九年十一月発行] 助七思い出話 五代目 越後屋助七

どぜう往来七号[昭和五十九年十一月発行] 助七思い出話 五代目 越後屋助七_f0193357_153725.jpg第七話 「鯨のはなし」

駒形どぜうと鯨とは縁が深い。いや、そんな生易しい間柄ではありません。むしろ、どじょうと同じで切っても切れない関係にあると言えるでしょう。なぜならば、当店でお客様にお出ししてご好評を頂いている「くじらなべ」や「さらしくじら」は、百年以上も続いている歴史的なメニューだからです。

その材料となる鯨ですが、昔はザトウクジラやセミクジラの肉を使っていました。しかし、両種ともずっと以前から捕獲禁止となってしまい、今日ではシロナガスクジラを使っています。ちなみに、鯨は世界の動物の中で最も大きな体をしていることで知られています。なかでもシロナガスクジラは最も大きく、体長24〜35メートル、体重90〜100トンにも達するといわれています。

また、鯨は哺乳類なので人間と同じように、鼻から空気を呼吸しています。しかも、鼻が頭の真上にあるので、天を仰ぐような格好になるため愛嬌があり、ちょっと気の毒のような気もします。その鼻もさすがに便利にできていて、海の上に浮かび上がっている時はオープンなのですが、空気を吸い込んで海中に潜る時は、しっかり鼻が閉まるようにできているというから、鯨をつくった神様も天才です。

さらに不思議なのが、鯨の潮吹き現象です。ある動物学の本には、次のように書かれています。

まず海上で吸い込んだ空気は、海中で潜っている間に体温と同じぐらいの温度に暖められ、水蒸気をいっぱいに含みます。そして、再び水面に浮かび上がった鯨は、この空気を空に向かって元気よく吐き出します。吐き出した空気は、冷たい空気に触れることで、水蒸気が霧のような小さな水滴になって吹き上げられます。などと、解説されているのです。

当店では、江戸時代から鯨肉は皮のついている脂身を使っていますが、これにはワケがあります。冷凍技術の進んだ現代では問題ありませんが、昔は近海で鯨を捕獲して岸まで運ぶまでに、肉が腐ってしまったのです。ところが、皮のついている脂身はすぐには腐らずに長持ちしました。その当時、当店では大阪の問屋から仕入れておりましたが、そのお店はどうなっているのでしょうか。

それはともかく、国際捕鯨委員会やアメリカを中心とした環境保護団体の強い反対にあって、捕鯨活動は全面禁止の瀬戸際に立たされています。遠からず当店の献立表からも「くじらなべ」や「さらしくじら」の文字が消えるおそれがあるのかと、忍びない気持になってしまいます。
by komakata-dozeu | 2009-04-02 15:37 | どぜう往来
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