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どぜう往来 三十号 [平成二年八月発行] 助七思い出話 五代目 越後屋助七(渡辺繁三)

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「ナマズの話」

 駒形どぜうがナマズを売り始めたのは、四代目の明治の初期で、すでに百年になります。このナマズ、どじょうと同じでヒゲを生やし、なかなか愛嬌がある。ところがさにあらず、ナマズは昔から大変な暴れ者なのです。

 室町時代に描かれた「瓢鮎図」には、男が手に持ったヒョウタンでナマズを押さえて、地震が起こらないように念じている絵があります。また、安政二年の大地震の様子を記した「安静見聞誌」には、次のような記事があります。

「本所永倉町の篠崎某という人は、常に漁を好み、十月二日夜も数珠子(ずずこ)というものにて鰻を捕らえんと河筋所々をあさるに鯰(なまず)しきりにさわぎ鰻一つも得ず、ただ鯰三尾を得たり。さてつらつら思うに、かく鯰の騒ぐ時は必ず地震ありという、若しさることもあらんと、漁をやめ家に帰り、庭に莚をしき家財道具を取り出して異変の備えをなせり。その妻はいぶかりて、ひそかに笑いけるに、その夜地震あり」

 昔からナマズが騒ぐと自信がある、とはよく聞く話だが、果たして、ナマズに地震の前駆現象を感知する能力があるのかどうかを研究した人に畑井新喜司博士がいます。博士は一九三二年に、これを証拠づけるために、もっとも敏感だといわれる体長12センチのナマズを用いた。その結果、約80%の的中率で地震を予知することに成功したという。

 そして、ナマズがどうして地震の前兆で何物かを感知して暴れるのかを追求した結果、ナマズが感知するのは、おそらく地震発生に先立って変化する地電流だろうと結論づけたのです。ところが、魚の研究家として有名な末広恭雄博士によると、ナマズは地震の前駆現象に対しては、一応敏感だといえそうだが、天候の変化やその他の自然現象に対しても敏感のようだから、ナマズが騒いでも、必ずしも地震がくるとはいえない、とはなしているので、まずは一安心?

 さて、先の畑井博士が実験に用いたナマズは体長12センチの小型のものだったといわれるが、成魚は平均50センチほどにもなるので、このような幼魚は東京付近では俗にチンコロと呼んでいる。このチンコロが店の商売用のナマズにときたま、紛れ込むことがあるが、この小型ナマズを見るといつも思い出すのが甥の昭一郎なのです。

 昭一郎は、私にとっては最初の甥だったのでとても可愛がっていた。甥は(といっても、今は立派な壮年になっているが)この小ナマズが大好物で店に入った時は、必ずとっておき、特別に調理しては夕飯の膳に出したものでした。甥は、今でも私の顔を見ると、そのころの話を懐かしんでくれる。私はそんな楽しそうな甥の顔を見るのが好きなのです。

 小ナマズの話が出たついでに大ナマズの話をしよう。といっても、日本のではなく、ラオスとタイのメコン川の深みに棲むナマズの珍種プラプークです。雄の成体は平均して体長が2.43メートル、体重が163キロというから世界最大の淡水魚の仲間に入るでしょう。日本のナマズは小魚やカエルを食しているが、プラプークはどんなものを食べているのだろうか?こんな怪物は当店ではちょっとお客さまに出せないが、日本のナマズは十一月にはおめみえします。三枚に下ろしたナマズの肉と中落ちの骨、それにあごと頭の部分を、たっぷり味醂の入った醤油で飴色に煮て、これに焼豆腐を入れて煮ながら召し上がって頂きます。まずはお楽しみに…。                         
by komakata-dozeu | 2011-03-01 10:01 | どぜう往来
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