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四十八号 [平成七年五月発行] のれんと柳 第十二話 渡辺栄美(五代目夫人)

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旅ゆかば(海外編)その三
続「ホノルルマラソン大会への応援歌」


ハワイホノルルマラソン大会に参加して三時間三十分を切ってみせます」と声高らかにチャレンジ宣言をした講談家の室井琴梅師匠の言葉を受けて、息子の孝之は、その約束を果たすべく、ハワイのマスコミ関係などにも働きかけ、ある秘策を練ったのでございます。

それは、少しでも日本とハワイの文化交流にお役に立つことが出来ないかとの考え方から発したものでございます。ご存知のように、ハワイには二世、三世も含めて相当数の日本人が住んでいらっしゃいます。日本語の解る年配者の数は、少数でしょうが、日本の古い文化に郷愁をお持ちの方もきっといらっしゃるはずです。講談もそのひとつでございます。せっかく日本から真打ちの講談家、琴梅師匠がハワイに(マラソン目的とはいえ)行くのですからその芸を披露する場を作らない手はございません。

ハワイのオアフ島で高級住宅街で知られるアイナハイナには、駒形どぜうの関連会社が経営する「レストラン駒形」がございます。和風のインテリアとお料理が評判で、わざわざ日本人観光客も気軽に立ち寄っていただいて感謝致しているのでございます。そこで、このレストラン駒形が主催者となって現地で日本・ハワイ交歓講談会を開催しようと企画を立案したのでございます。その企画を息子の孝之がハワイの放送局「コーホー放送」に持ち込んだのでございます。

「コーホー放送」は、日本語専門の放送局で、明るいオフィスには日本語の出来るスタッフが何人もいらっしゃいます。講談会の企画には諸手を挙げて賛同してくださり、事前にニュースとして報道してくださることになったのでございます。企画が内定したところで、琴梅師匠に打ち明けたところ大歓迎してくださいました。それからは、マラソンの練習にも講談の稽古にも一段と熱が入ったようでございます。

平成元年十二月初旬、いよいよ待ちに待ったハワイホノルルマラソン大会に参加すべく室井琴梅さんと駒形どぜう応援団一行は、成田国際空港を飛び立ったのでございます。目的地のハワイに無事到着し、空港では、現地の若いハワイアンの娘さんが南国の花ハイビスカスのレイを首にかけてくれてニコッと笑ってやさしく抱擁してくれます。その仕種がとてもチャーミングで、微笑ましく感じました。

少し落ち着いたところで、周囲を見回すと、当然のことながら日本人ばかりでございます。それもビジネスマンや、観光客の風情ではなく、明らかにマラソンに参加するような健康的で屈託のない表情をした人達でございます。そんな人達を見て、私は琴梅師匠も大勢のライバルを相手にする受験生のような心境になられたのではないかしらと思ったのですが、当の師匠はそんな様子は微塵も見せないでワイキキにあるホテルの直行バスにしゃんと乗り込んだのでございます。

その日から二日ほど琴梅師匠はワイキキの浜辺で軽いトレーニングをこなすことになったのでございます。この時ばかりは孝之も大変に気をつかい、師匠の為にレストランに特別食を注文したり、宿泊も応援団一行とは別のホテルの部屋をとったりしたようでございます。そうした気配りも師匠にはプレッシャーと感じたのではないでしょうか。しかし、結果は三日後の本番に出ることになったのでございます。(つづく)
by komakata-dozeu | 2012-08-01 08:00 | のれんと柳
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