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四十九号 [平成七年八月発行] のれんと柳 第十三話 渡辺栄美(五代目夫人)

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旅ゆかば(海外編)その四
続「ホノルルマラソン大会への応援歌」


平成元年十二月初旬のある日曜日、待ちに待ったホノルルマラソン大会の日がやって参りました。その日は、マラソンランナーとして正式に参加する講談家の室井琴梅師匠の応援団の一行七名も師匠と同じ早朝の三時には起床致しました。

朝食はハワイのレストラン駒形で特別に調理した特製の弁当を全員で頂きました。このお弁当も琴梅師匠がベストコンディションで走ることが出来ますようにとの願いをこめて息子の孝之が工夫したようでございます。料理の基本は、消化に良いものをベースにすることで、ご飯にデンプン質の多いお芋類のおかずをとり入れたり、塩分の欠乏を考慮して佃煮類やタクワン類も加えました。

宿泊先のホテルを出発してハワイマラソン大会のスタート地点のダウンタウン(中国人街)へ着いたのが午前五時でございます。スタート地点について、少し解説を加えますと、数年前の大会からその地点が世界第二位のスケールを誇るアラモアナショッピングセンター前になったのでございます。大会参加者が関係者も含めて三万人を越すようになりますとダウンタウンでは人が溢れて民家に迷惑をかける心配や大会の運営管理にも支障をきたすおそれがあるからでしょう。

閑話休題

ダウンタウンの出発点に話を戻します。ハワイの午前五時は朝まだきで、トランクの荷台からサーチライトを使用して会場周辺を明るく照らし出しております。その明かりを目指して、あたかも蟻の大群のようにどこからともなくマラソンランナーたちが集まってくるのでございます。

やがて選手達を勇気づけるようにハワイ駐留の海兵隊のブラスバンドが賑やかにマーチを奏で始めます。選手の方はと見れば皆さん上の空で早朝で肌寒いせいか黒いビニール製のゴミ袋を頭からすっぽりと被り、手足だけ出している外国人もいます。私は、おかしさをこらえて、そんな人さまざまな様子を見て楽しんでいたのでございます。

われらが期待の星、琴梅師匠もスタートライン目指してゆっくりと走っていきました。やがて、ステージに見立てたトラックの荷台の上に司会者が現れ、大会関係者の紹介、ハワイ市長さんの挨拶が行われ、次いでアメリカの有名なシンガーのリードで国歌斉唱がございました。その頃には会場周辺も選手やその関係者で立錐の余地もないほど埋まってしまいました。司会者が大声でカウントダウンを始めるとその声に従うかのように選手達も観衆も一緒になって、ナイン・エイト・セブンと声をはりあげたのでございます。

ゼロと声が上がると同時に明けの空に向かって花火が勢いよく打上げられました。最初にスタートラインを飛び出したのは車椅子レースに参加した選手の皆さんです。私は体の不自由に負けずにチャレンジする姿に思わず「最後まで頑張ってくださいね」と胸の内でつぶやいたのでございます。その三十分後に一般の人も参加して行われるマラソン大会の幕が切って落とされたのでございます。

この時の感動は、今でも鮮やかに脳裏に蘇って参ります。ハワイのタクシーの運転手さんが言っておられました。「遠くの方にいても、まるで戦車が走っているようにドドンドドンと地響き音が聞こえてくるのですよ」戦車は戦争のシンボルですが、こちらは二万人の足がかなでる平和の足音なのですね。(つづく)
by komakata-dozeu | 2012-09-01 08:00 | のれんと柳
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